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プログラム・リバースエンジニアリングの法律問題

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プログラム・リバースエンジニアリングとは

 プログラム・リバースエンジニアリングとは、コンピュータ・プログラムを調査・解析することを意味します。
 (以下では、プログラム・リバースエンジニアリングを「リバースエンジニアリング」、コンピュータ・プログラムを「プログラム」と表記します。)

 具体的に、プログラムは、人間がそのままでは読むことができない形式(機械語、オブジェクト・コード)で存在しますが、これを人間が解読可能な形式(プログラム言語、ソース・コード)に変換(「逆コンパイル」といいます)して、そのプログラムの仕組みを調査・解析することを意味します。

※リバースエンジニアリングは、プログラム以外の工業製品等にも使われる言葉ですが、本件記事では、コンピュータ・プログラムのリバースエンジニアリングの法律問題に焦点をあてて解説します。

 このようなリバースエンジニアリングは、新しいプログラムの開発・研究、障害や脆弱性の調査、運用互換性の調査、著作権侵害の調査などを目的として行われており、特に、IT化が進んだ社会においては、プログラムの安全性を検証して情報漏洩やシステム障害を防ぐためにリバースエンジニアリングが重要となる場面もあります。

 今回は、リバースエンジニアリングに関わる法律問題について概要を解説していきます。

 

リバースエンジニアリングの法律問題

 プログラムは特許法、著作権法など法律により知的財産として保護される場合があります。このように法律により保護を受けるプログラムについて、リバースエンジニアリングにより解読可能なプログラム言語の形式に変換して調査・解析することが、特許権、著作権その他の第三者の権利を侵害することにならないかということがリバースエンジニアリングの法律問題です。

※特許法では、プログラムも「発明」の対象とされており、技術的思想の創作のうち高度なものについては、特許を受け、法律上の保護をうけることができます(特許法2条1項、3項)。

※著作権法では、プログラムも「プログラムの著作物」として保護されます(著作権法10条1項9号)。ただし、プログラム言語、規約、解法は保護されず(同条3項)、ありふれた短いプログラムも保護の対象外となります。

 このうち、特許法との関係で言えば、特許法69条1項は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」については明文で許しており、この限りでプログラムのリバースエンジニアリングも法律上許されることになります。

※特許法69条1項
「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。」

 

著作権法上の問題

 より重要な問題は著作権法との関係です。
 リバースエンジニアリングでは、オブジェクトコードからソースコードに変換(逆コンパイル)して調査・解析を行いますが、これは、対象となるプログラムのソースコードを複製または翻案していることとなり、形式的には、もとのプログラムの作成者の著作権(複製権(著作権法21条)、翻案権(同法27条))を侵害してしまうことになりそうです。

※リバースエンジニアリングは、ソースコードをコンパイラと呼ばれる変換プログラムでオブジェクトコードに変換して発売・配布されたプログラムを、逆コンパイラによってソースコードに再変換するという過程をとります。コンパイラや逆コンパイラの種類や使い方によっては、リバースエンジニアリングによって作られたソースコードが元のソースコードとことなる場合もありますが、実質的に同じものと考えられています。

 このように、リバースエンジニアリングが形式的には複製権・翻案権侵害にあたるおそれがあるとすると、新しいプログラムのための研究・開発やプログラムの脆弱性の調査を安心してできなくなってしまうという弊害が生じてしまいます。

※注意しなければならないのは、著作権は、表現を保護するものであり、表現の基礎にあるアイデアを保護するものではないため、プログラムのアイデアを工夫・利用して別のプログラムを作成すること自体は著作権を侵害しません。そのため、リバースエンジニアリングにおいても新しいプログラムのための研究・開発をすることは問題ではなく、複製・翻案をすること自体が法律上の問題となります。

 リバースエンジニアリングの必要性に対応するための現行法の規定は十分ではありません。著作権法47条の3はプログラム著作物の複製または翻案を一定の場合に認めていますが、これは、プログラムを自分のコンピュータにインストールする場合など、プログラムを利用するために必要な複製または翻案を予定したものであり、リバースエンジニアリングの場合のようにプログラムを調査・解析するための複製または翻案を予定したものではありません。

※著作権法47条の3 第1項本文
「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案をすることができる。」

 政府は、長い間、リバースエンジニアリングの適法化に向けた法制度整備を議論しており、例えば下記のような目的で行うリバースエンジニアリングについては適法化する方向で議論がされています。

  1. 相互運用性の確保の目的
    新たに開発するプログラムについて、他のプログラムとの相互運用性を確保するために必要なインターフェース情報等を抽出することを目的とする場合です。
  2. 障害の発見等のプログラムの表現の確認
    プログラムの障害等の発見、脆弱性の確認など、プログラムの使用者に対してその適正・安全を確保することを目的とする場合です。
  3. その他、プログラムの開発のために必要なアイデアの抽出等
    新たなプログラムを開発するためのアイデアを調査・研究することを目的とする場合です。

※参考:文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ(案)PDF

 しかし、上記目的が認められる範囲があいまいなこともあり、どのような条件でリバースエンジニアリングが認められるかについて、未だ立法化には至っていない状況です。
リバースエンジニアリングが必要となる場面は強く意識されており、違法かどうかが不透明な状況は、事業者の活動を萎縮させてしまいます。基準の明確化が望まれるところです。

※なお、近時判例では、リバースエンジニアリングが複製・翻案にあたるとしても、具体的事情のもとでは、複製・翻案という著作権侵害に基づく損害賠償請求が権利の濫用(民法1条3項)として許されないとした判決があります(大阪地裁平成21年10月15日判決)。これは権利の濫用という一般的規定によって解決したものであり、リバースエンジニアリングが著作物の複製・翻案にあたるか否かについて明確な基準を示したものとはいえないでしょう。

※また少し古い判例になりますが、リバースエンジニアリングにより解読した内容にコメント等を付して書籍として出版したマイクロソフト秀和事件判決(東京地裁昭和62年1月30日判決)においては、「本件オブジエクトプログラムを逆アツセンブルしたうえ、解読して、ラベル及びコメントを付したこと」について、「被告秀和が本件オブジエクトプログラムを逆アツセンブルして、解読したものにラベル及びコメントを付した行為は、本件著作物の複製行為であると評価することができる」としています。
この判決は、「解読したものにラベル及びコメントを付した行為」、つまり、ラベル及びコメントを付したソースコードを記載した出版物の作成行為について判断したものであり、プログラムの調査・解析行為それ自体が複製行為に該当するか否かについて判断したものとはいえないように考えます。
以上のように、リバースエンジニアリングについての判例の立場も明確に定めっている状況にはありません。

 

契約による制限

 契約によってリバースエンジニアリングが制限されている場合もあります。
 例えばソフトウェアの使用許諾契約書には以下のようなリバースエンジニアリング禁止条項が記載される場合があります。

 第X条 リバースエンジニアリング等の制限
 「本ソフトウェアをリバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブル、あるいは本ソフトウェアに基づいて派生的な成果物を作ってはならないものとします。」

 このようなリバースエンジニアリング禁止条項も、契約自由の原則のもとでは、原則として有効なものと考えられます。しかし、リバースエンジニアリングが持つ技術の発展を促進させる側面を考えると、このような禁止条項を無制限に有効とするとプログラム開発に関する自由競争を阻害する可能性があります。

 このような点を踏まえ、平成14年3月20日に公正取引委員会より公表された「ソフトウェアライセンス契約等に関する独占禁止法上の考え方-ソフトウェア独占禁止法に関する研究会中間報告書-」においては、①ソフトウェアの製品市場、技術市場におけるライセンシーの研究開発活動が阻害され、②ハードウエアの製品市場等における公正な競争が阻害される場合には、「不公正な取引方法」(具体的には一般指定12項拘束条件付取引)に該当し、違法になるとの見解が示されています。

※不公正な取引方法第12項
「・・・相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、相手方と取引すること。」

 

さいごに

 以上、リバースエンジニアリングの法律問題について、リバースエンジニアリングを許容すべき場合があることについて以前より認識はされているものの、立法化などにより明確な基準は示されておらず、なお不透明な状況となっています。
 このような不透明な状況は事業者にとって萎縮的効果を及ぼし、技術発展の足かせになる場合もあるように思い、早期の解決が必要なように思います。

 

本記事は、2014年07月07日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。


この記事のアドバイザー

yoshida 吉田秀平

弁護士

上場企業の総務・法務を担当した経験を活かして、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップの支援をさせて頂きたく思っています。訴訟になる前に、リスクが顕在化する前に、低コストで高い効果の予防法務サービスを提供することが目標です。

  • 所属:しぶや総和法律事務所

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