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仕事における女性優遇措置と平等の問題

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キャリア官僚の女性積極採用

 今回は実務的な話題ではなく、時事問題に関連した話題です。
 
 政府は2010年に男女共同参画基本計画で2015年度までに国家公務員における女性採用比率を3割に高める目標を掲げ、2015年度に採用した国家公務員(2014年度総合職試験の採用内定者)のうちいわゆる「キャリア官僚」と呼ばれる幹部候補の総合職に占める女性の割合が34.3%(なお、採用内定者数に占める女性の割合は35.4%)になりました(前年度から約10%の上昇)。

政府は28日、2015年度に採用した国家公務員のうち「キャリア」と呼ばれる幹部候補の総合職に占める女性の割合が34.3%になったと発表した。(中略)
政府は10年に定めた男女共同参画基本計画で15年度までに女性の採用比率を3割に高める目標を掲げ、これを達成した形だ。(引用元:2015年4月28日付け日経新聞)

参考サイト:人事院「人事院平成26年度年次報告書(資料1-2-1及び資料1-2-2参照)」

 

男性に不利な採用面接!?

 「キャリア官僚」の採用過程は、第一に受験者が総合職試験を受験し、合格者のなかから各省庁が実施する採用面接を経て各省庁に採用されることになります。

 総合職試験の合格・不合格は性別に関わらず決定されるところ、2014年度総合職試験の合格者2080名のうち女性は441名(21.2%)となっています。

 各省庁が採用面接において政府の女性採用比率3割という目標に従って女性を積極的に採用したとしたら、採用面接の段階で女性は男性と比較して優遇され、その分男性は不利に扱われていると考えることもできそうです。

※なお念のため、採用面接は応募者の人物等を総合的に評価して行われるため、必ずしも総合職試験における男女割合が反映されることは必然ではありません。

 

憲法が定める平等との関係

 「キャリア官僚」の採用における上記時事問題は一例として、例えば、採用や昇進等において女性を優遇するような方針をとり、結果として男性が不利な立場となるような場合、法律の観点から問題はないのでしょうか。

 憲法第14条1項は、「性別」により「経済的又は社会的関係」における差別を禁止しています。

憲法第14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

 ただし、憲法第14条1項は、形式的・絶対的な平等を要求するものではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づく区別を許容するものと理解されています。

 過去の判例においては、「立法目的が正当であり、かつ当該立法において具体的に採用された区別の対応がその目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り」憲法第14条1項に反しないとの基準が示された事例もあります(サラリーマン税金訴訟:最高裁昭和60年3月27日判決)。

※厳密にいうと、憲法は基本的に国と国民との関係を定めたものであって、国民同士(私人間)に直接的に適用されるかという論点もあります。

 

男女雇用機会均等法と女性雇用推進法

 仕事の場面における性別に着目した法律としては、男女雇用機会均等法女性雇用推進法があります。

 男女雇用機会均等法では、性別を理由とする差別の禁止(同法第5条)が定められる一方で、妊娠・出産というライフイベントのある女性について雇用分野における差異を解消するため、女性労働者について「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずること」を妨げないとしています(同法第8条)。

参考サイト:法令データ提供システム「男女雇用機会均等法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)」

 

 女性雇用推進法は平成28年4月1日から施行された新しい法律です。

 国・地方公共団体・301人以上の労働者を雇用する事業主について、①自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析、②その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、③自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務付ける内容の法律です。

参考サイト:厚生労働省「女性雇用推進法特集ページ(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」

 

議論の軸はどのようなところにあるのか?

 冒頭の「キャリア官僚」の事例やこれに類似した女性優遇措置が憲法の定める平等に反しないかについてどのように考えるとよいのでしょうか。

 先述の最高裁判決によると、①立法目的が正当であること、②区別の対応がその目的との関連で著しく不合理であることが明らかでないこと、が条件になりそうです(憲法学説では多くの議論があるところですが)。

 上記のうち①立法目的が正当であることについて、仕事の場面において女性を優遇する理由としては以下のようなことを考えることができそうです。

※目的が正当であっても、具体的な区別の内容が行き過ぎであったり、関連性がないものであればやはり不平等であるという点もご留意ください。

 

【役割の固定化を解消する視点】
 歴史的な経緯を見ても組織の仕組みを見ても、ビジネスの世界の多くは男性が中心となって作ってきたものと言ってもよく、そのなかで女性が活躍していくことは難しい現状があるように思います。女性が活躍しやすい職場を拡充していくためには、女性目線から仕事の組織や環境を作っていかなければならないでしょう。男性は仕事、女性は家事又は補助的事務といった従来の固定化された役割を脱却するために必要な施策は許されるのではないでしょうか。

 

【身体的な差異を解消するための視点】
 男性・女性の最も大きな違いとして、妊娠・出産があります。このような事実上の身体的差異を全く無視して、その個人を能力だけで評価することはできないように思います。現代の労働環境はIT技術や福利制度の充実により、男女の身体的差異をカバーできる環境にあります。女性が十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備するために身体的差異を埋めるための施策は許されるのではないでしょうか。

 

【日本の生産性維持という視点】
 政府は、女性の活躍を推進する理由の一つとして、少子化に伴う労働人口減少・生産性低下を補うということも挙げているようです。
 この理由は、日本国の利益・社会全体の利益に着目したものですが、国益のために女性を働かせるという方向に進む危険性、又は国益のために男性に対する不平等取扱い(人権の制約)が許されるという議論に進む危険性があります。憲法は「個人の尊重」を最も重要な価値として定めており、日本の生産性維持という理由は憲法との関係で慎重な判断が必要なように思います。

 

本記事は、2016年06月13日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。


この記事のアドバイザー

yoshida 吉田秀平

弁護士

上場企業の総務・法務を担当した経験を活かして、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップの支援をさせて頂きたく思っています。訴訟になる前に、リスクが顕在化する前に、低コストで高い効果の予防法務サービスを提供することが目標です。

  • 所属:しぶや総和法律事務所


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