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倒産手続における所有権留保された自動車の扱いについて

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問題となる場面

 今回はすこし専門的な話題です。
 倒産実務的には近時の判例もある重要なテーマで、個人的興味もあるのでとりあげます。

 まず、問題となる状況を説明します。

 

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①“販売会社”が“購入者”に対して自動車をクレジットによる割賦を利用して販売。自動車について販売会社を所有者として登録する方法により所有権留保(担保)を設定。

② “購入者”の希望により“クレジット会社”が自動車の販売代金について“販売会社”に対して立替払いを実施。

③ “クレジット会社”は “購入者”に対して立替払いした販売代金債権(契約に基づく立替払いによる求償権)を取得。

 

上記のような状況のもとで、購入者が倒産(破産/民事再生手続の開始)した場合、
(1)販売会社は所有権留保について別除権を行使して自動車を回収・処分することができるでしょうか。
(2)クレジット会社は所有権留保について別除権を行使して自動車を回収・処分することができるでしょうか。

※所有権留保とは、売主が売買代金を担保するために、販売代金が完済されるまで既に引渡しを終えた売買目的物の所有権を売主に留保しておく担保設定方法です。民法に明文の規定がない非典型担保ですが実務上認められています。自動車の場合、販売会社を所有者として登録する方法がとられる場合があります。

※別除権とは、破産手続・再生手続の開始にかかわらず、担保権を実行して債務者の財産を処分する権利のことです(破産法65条、民事再生法53条)。倒産手続では、担保権を有しない一般債権者による権利行使は禁止されるのが原則となっています。

※クレジット会社による立替払いを利用する場合、クレジットの利用約款により、自動車の所有権はクレジット会社に移転し、立替払い金全額が完済されるまで留保される内容の契約が締結される場合が通例です。

 

判例の立場を前提とした結論

 上記(1)(2)の問題について、近時の判例の立場からの結論(判例の事案と全く同一ではありませんが判例を前提とした場合にもっとも可能性が高い結論です)をまず示します。

購入者について倒産手続が開始した場合において・・・

(1)販売会社は所有権留保について別除権を行使して自動車を回収・処分できるか。
 ⇒できない。販売会社は自動車販売代金の全額についてすでにクレジット会社を経由して弁済を受けているため、そもそも所有権留保(担保)行使の根拠となる購入者に対する原債権(被担保債権)を有していない。

(2)クレジット会社は所有権留保について別除権を行使して自動車を回収・処分できるか。
 ⇒ クレジット会社を所有者として登録(自動車運送車両法4条・5条)していない限りできない。
 ⇒ 登録不要の軽自動車については(占有改定の合意が認められれば)できる。

※自動車運送車両法4条は、軽自動車等の車両を除いて、自動車については自動車登録ファイルに登録しなければ運行の用に供してはならないとし、同法5条は自動車登録ファイルへの登録を自動車に関する所有権の得喪の対抗要件としています。対抗要件ということは、登録がなければ所有者であることを第三者に主張できないということを意味します。

※最高裁平成22年6月4日判決(民集64巻4号1107頁/金融法務事情1910号68頁)
購入者に民事再生手続が開始された場合で、クレジット会社が所有権留保を行使して自動車を回収・処分した場合に、その回収・処分行為が否認された事案です。

※神戸地裁平成27年8月18日判決(金融法務事情2042号91頁)
購入者に破産手続が開始された場合で、クレジット会社が所有権留保を行使して自動車を回収・処分した場合に、破産管財人によってその回収・処分行為が否認された事案です。

※名古屋地裁平成27年2月17日判決(金融法務事情2028号89頁)
購入者に破産手続が開始された場合で、クレジット会社が軽自動車についての所有権留保を行使して回収・処分した場合に、破産管財人による否認権行使が否定された事案(回収・処分は有効)です。

 

判例の立場の説明

 (1)の場合、販売会社は既に販売代金について弁済を受けているので購入者に対して被担保債権を有していないため、販売会社が所有権留保を主張できないのは分かりやすいかと思います。

 では(2)の場合、クレジット会社は購入者に対して立替金債権を有しており、また、約款によって所有権留保を設定しているのにこれを行使して引き上げることができない場合があるのはなぜでしょうか。

 債務者について倒産手続(破産手続・民事再生手続)が開始した場合、債権者間の平等を図るために、一部の債権者に対する弁済は禁止されますが、担保権を有している債権者の担保権は”別除権”として倒産手続にかかわらず行使できます。もっとも、別除権として保護されるためには、倒産手続開始の時点において「登記、登録等」を具備していなければならないとされています(破産法49条、民事再生法45条参照)。

 

 倒産手続開始の時点において「登記、登録等」を具備しなければならない理由について、判例は「個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨」ということを述べています(前記最高裁平成22年6月4日判決)。

 もう少し平易な説明を試みると、担保権を有する債権者が他の債権者に優先して債務者財産から弁済を受けるためには、その担保権が「登記、登録等」により優先されるべきこと、債務者の一般財産に含まれないことが公示されてなければならない、ということです。

※「登記、登録等」を要求する破産法49条、民事再生法45条の趣旨について、対抗要件を必要としたものとする説明が一般的ですが、権利保護要件と理解する立場もあるようです。上記最高裁平成22年6月4日判決は「登記、登録等」を必要としながらもいずれの見解によっているかは不明です(最高裁判所判例解説民事編平成22年度上巻387頁)。

 

軽自動車の場合には登録が不要

 (2)の場合において、軽自動車等の登録制度がないものについては、占有改定の合意さえ認められれば、クレジット会社は所有権留保を主張できるとされています。

※占有改定(民法183条)とは、物の占有者が、以後第三者のために当該物を占有する意思表示をすることによって、その第三者が占有を取得する場合のことです。(例えば、AがBのために物を占有することを意思表示した場合に、Aは占有代理人となりBは占有者となります。)

 

 「登記、登録等」が必要となる自動車と比べて、担保権が保護される要件は非常に緩和されているように思います。対抗関係における公示方法として占有態様に変化のない占有改定を含めて良いかという点にそもそもの疑問もありますが、類型的な財産的価値の重要性や登記・登録制度がないこと、他人所有物であればそもそも債務者の一般財産に含まれないこととの比較を考慮するとやむをえないようにも思います。

 

最後に

 今回紹介したテーマには実は多くの検討事項が含まれており、大変興味深いテーマなのですが上記は結構大雑把な説明になってしまいました。判例の射程や背後にある考え方など詳しく知りたい方はぜひ判例原文やその他評釈にあたってみてください。

 

本記事は、2016年08月08日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。


この記事のアドバイザー

yoshida 吉田秀平

弁護士

上場企業の総務・法務を担当した経験を活かして、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップの支援をさせて頂きたく思っています。訴訟になる前に、リスクが顕在化する前に、低コストで高い効果の予防法務サービスを提供することが目標です。

  • 所属:しぶや総和法律事務所


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