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契約書のポイント ~知的財産権の帰属~

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知的財産権の帰属に関する契約条項

 知的財産権とは、人の知的創作活動の成果に対して認められる無体財産権(形のないものに対する財産権)であり、特許権、実用新案権、意匠権、著作権、商標権などが法律により認められています。

 技術、ソフトウェア、デザイン、写真、ブランドなどの開発、創作、利用許諾をする場合など、現代の契約において知的財産権がどのように帰属するかということは、契約の重要なポイントとなっています。

 今回は、知的財産権の帰属に関する契約条項を起案・検討するにあたって、私が気を付けているポイントを紹介したいと思います。

 

誰が本来的に知的財産権を取得するのか

 まず、契約交渉にあたって最も重要なことは、誰が本来的に知的財産権を取得すべきなのかを知っておくことです。

 契約締結前から一方当事者が知的財産権を取得しており、これを相手方当事者に譲渡または利用許諾する場合の判断は簡単だと思います。しかし、契約に基づく業務を行う過程で知的財産権が発生する場合(開発委託契約など)に、本来的に知的財産権がいずれの当事者に帰属するかは法律の規定を知っておく必要があります。

 代表的な知的財産権である特許権・著作権について例をあげると以下のとおりです。

特許権: 特許権が取得するためには「特許を受ける権利」を有する者が、特許出願をして審査を受け、特許権の設定登録がされる必要があります。
そのため、特許権を本来的に取得するのは「特許を受ける権利」を有する者のうち、特許権の設定登録をした者ということになります。
「特許を受ける権利」は、「発明をした者」(特許法29条1項柱書)が本来的に取得することになるため、「発明をした者」が誰かにより判断すべきことになるでしょう。
著作権: 著作権の発生には登録手続等は不要(無方式主義)であり、その著作物が創作された時に、「著作者」(「著作物を創作する者」著作権法2条1項2号)が本来的に取得することになります。
例えば、デザイン業務委託の場合は、委託者ではなく、実際にデザインをした受託者が、当該デザインについて本来的に著作権を取得します。

 

契約のタイプ:移転型と留保型

 知的財産権が関係する契約において、知的財産権の帰属の定め方については、大きく「移転型」と「留保型」とそれ以外の「その他」があるように考えています。

「移転型」: 契約に関係する知的財産権を、本来的に知的財産権を取得する当事者から相手方に移転することを内容とするタイプの契約。
デザイン業務受託やソフトウェア開発業務受託など、成果物の作成が契約目的となっている場合には移転型をとることが多いのではないでしょうか。
「留保型」: 契約に関係する知的財産権を、本来的に知的財産権を取得する当事者に留保し、相手方に知的財産権の利用を許諾するタイプの契約。ソフトウェア利用契約や技術を利用した物品の販売契約などの知的財産権を利用した製品の販売・利用許諾が契約目的となっている場合は留保型をとることが多いのではないでしょうか。
「その他」: 上記のいずれにも該当しないタイプ。知的財産権の帰属をその後の協議により決定する場合や、共有とする場合など。共同開発契約などでとられる場合があるのではないでしょうか。

 知的財産権を「移転型」にするのか、「留保型」にするのか、「その他」の方法によるのかによって、それぞれ気を付けるべきポイントが異なってきますので、まず、今回の契約が「移転型」なのか、「留保型」なのか、「その他」なのかを決めるか、または、それぞれのタイプの留意点を考慮してこれらのタイプのいずれをとるべきか判断するとよいでしょう。

 

移転型のポイント

~移転する知的財産権の対象は明確に~
 知的財産権を移転する場合、後日、どのような権利が移転されたのかを巡る紛争を予防するため、移転対象となる知的財産権は明確に定めて置く必要があります。
 登録がされている知的財産権であれば別紙で登録番号や登録内容を添付し、登録がない知的財産権についても、別紙で具体的な知的財産権の内容を詳しく書くなどして、対象をできる限り明確化しておくのがよいでしょう。

~対価の適正~
 例えば、開発委託契約などにおいて知的財産権を移転する場合、契約書に定められた対価が、開発業務のみの対価であるのか、開発業務の成果物およびこれに関係するすべての知的財産権を譲渡する対価も含んでいるかを意識して契約をする必要があります。場合によってはあらためて対価交渉をする必要がある場合もあるのではないでしょうか。

~譲渡する場合、その後の業務に支障がないか~
 知的財産権を移転する側にとって特に気を付けなければならないことは、知的財産権を相手方に移転することによって、その後、自社のビジネス・業務に支障が生じないかということです。
 この点から考えて、契約以前から自社が保有している知的財産権を移転することは、特に慎重になるべきで、相手方に対する(非排他的な)利用許諾で契約目的を達成できない場合や、知的財産権の移転そのものを目的とする場合以外は移転型をとるべきではないでしょう。

~移転に登録等の手続が必要ないか~
 知的財産権のなかには、権利移転に登録等の手続が必要な場合もあります。
 例えば、特許権の場合、その「移転」は「登録しなければ、その効力を生じない」(特許法34条の4)とされています。
 この場合、移転登録手続をとること忘れないことはもちろん、特許権を譲渡する相手方に対して移転登録手続への協力義務を契約条項として記載することも検討すべきでしょう。
 また、著作権の場合、その「移転」は「登録しなければ、第三者に対抗することができない」とされています(著作権法77条1号)。
 この場合、登録手続がなくても移転の効力は生じますが、移転を第三者に対抗するためには登録手続が必要となります。

 

留保型のポイント

~利用許諾の必要性~
 留保型をとる場合、契約目的からして、知的財産権の利用許諾が必要かどうかを検討すべきでしょう。たとえば、ソフトウェア利用許諾契約などでは当然に知的財産権の利用許諾が必要となってきます。一方で、新たに知的財産権が発生する場合の帰属について定める場合には、当該新たに発生する知的財産権の利用は契約目的実現に不可欠のものではないので利用許諾をあえて定める必要性はないように考えます。

~目的・期間・範囲の明確化~
 知的財産権を留保して利用許諾をする場合、利用許諾の目的、期間、(地理的)範囲を明確にしておくべきです。目的は契約目的や販売する製品・ソフトウェアの利用に必要な範囲に限定するのが一般的ではないでしょうか。期間・(地理的)範囲については、契約の重要性によっては決めておいた方が良い場合もあるでしょう。

~排他的・非排他的な利用許諾~
 知的財産権の利用許諾を排他的に受けるのか、非排他的に受けるのかは重要なポイントです。「排他的」とする場合、基本的に利用許諾を受けた当事者以外の者(利用許諾をした者および第三者)が知的財産権を実施できないことになります。
 契約目的に応じて排他的・非排他的の選択をすることになりますが、排他的とする場合には契約存続期間中、実質的にその知的財産権を移転するのに近い状態になるため、対価交渉においても考慮する必要があるでしょう。

~登録等の手続が必要ないか~
 利用許諾の場合でも、登録等の手続が必要な場合があります。
 例えば、特許権の場合、「専用実施権」(特許法77条2項)という、特許発明を業として独占的に実施できる権利であり、これを設定する利用許諾の方法があります。この場合、専用実施権の設定は「登録しなければ、その効力を生じない」(特許権法98条1項2号)とされており、利用許諾の場合でも、一定の場合には登録等の手続が必要となることに注意してください。

 

その他の場合のポイント

~協議型:問題の先送りになっていないか~
 例えば、新たな知的財産権が発生した場合には、その都度、両当事者の協議により決定する、などと契約条項に定める例は少なくないと思います。
 この場合、契約の目的からして、新たな知的財産権が発生する可能性が高い場合には、協議により後日決定とすることは問題の先送りにしかなっていない場合があり、場合によっては紛争に発展することも考えられます。
 特に、法律上、本来的に知的財産権を取得しない側にとっては、自己に知的財産権が帰属するとの主張を後々するにあたって、依拠すべき根拠が「協議」しかないこととなるので、事前に帰属を決めておくのがよいでしょう。

※事前に相手方に知的財産権が帰属すると定める場合(相手方に譲る場合)であっても、その代わりに契約書の別の部分でこちら側に有利な条項を採用してもらうなどの交渉をする余地もあるのではないでしょうか。

 一方で、新たな知的財産権が発生する場合があまり想定できない契約の場合には、事前に無用となる可能性が高い部分で契約交渉にコストをかける必要性は低いとかんがえられるため、後々協議で決定すると定めて置いてもよいのではないでしょうか。

~共有型:権利行使の障害にならないか~
 あまり見ることはないですが、新たに生じた知的財産権の帰属について両当事者の共有とする場合もあるようです。
 共有は、各共有者が目的物の全体について割合的権利(持分権)を持つ状態ですが、各共有者の単独による権利行使が自由にできない場合があります。例えば、特許法・著作権法では以下のようになっています。

特許法 : 「特許を受ける権利」・「特許権」が共有されている場合、各共有者が持分を譲渡し、これに質権を設定する場合には、他の共有者の同意を得る必要があります(特許法33条3項、73条1項)。
「特許を受ける権利」が共有されている場合、特許出願は各共有者の共同出願による必要があります(特許法38条)。
「特許権」についての特許期間の延長登録も各共有者の共同出願による必要があります(特許法67条の2) など
著作権法: 「著作権」が共有されている場合、他の共有者の同意がなければ、持分を譲渡し、質権を設定できず、また、行使することもできません(著作権法65条1項2項)。

 このように、共有状態とすることにより、知的財産権の行使に支障が生じ、有用な知的財産権がその有用性を発揮できない事態も生じうるため、特別の事情がない限り、共有とすべきではないように考えています。

 

契約書のポイント ~暴排条項~
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契約書のポイント ~合意管轄条項~
パロディと著作権法の法律問題
フェアユースを巡る議論
プログラム・リバースエンジニアリングの法律問題

 

本記事は、2014年09月22日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。


この記事のアドバイザー

yoshida 吉田秀平

弁護士

上場企業の総務・法務を担当した経験を活かして、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップの支援をさせて頂きたく思っています。訴訟になる前に、リスクが顕在化する前に、低コストで高い効果の予防法務サービスを提供することが目標です。

  • 所属:しぶや総和法律事務所

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