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日本産業界における特許権と「発明の対価」

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日本人教授3名が2014年ノーベル物理学賞を受賞

日本時間10月7日午後7時、スウェーデンから非常に喜ばしいニュースが国内に伝わった。

スウェーデン王立科学アカデミーは7日、産業界に爆発的に広がった青色LED(青色発光ダイオード)技術の開発に多大に貢献したと評し、名城大学教授赤崎勇氏・名古屋大学教授天野浩氏・米カリフォルニア大学教授中村修二氏の3名に、2014年のノーベル物理学賞を授与すると発表したのだ。

 

発光ダイオードとは、順方向の電圧をかけた際に発行する半導体素子のことで、その技術開発は、1962年にニック・ホロニアック米イリノイ大学名誉教授がゼネラル・エレクトリック(GE)在籍中に赤色の発光ダイオードを発明したところから始まったそうだ。

その特性は、簡素な構造であるため安価で大量生産が可能なことや、低電力で駆動できること、電球と比べて軽量かつ長寿命なこと、従来の光源である蛍光灯や白熱灯と異なり、紫外線や赤外線を含まない光が得られること等が挙げられるという。

1970年代には緑色の発光ダイオードの製品化にも成功したことで、あらゆる色を表現することができる「光の三原色:青色・赤色・緑色」のうち赤と緑の2つが揃っていたものの、残す青色発光ダイオードに関しては多くの研究者が実用性のある強さの光を作り出すまでに至らず、「20世紀中の実用化は不可能」とまで言われていたそうだ。

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光の三原色:RGB

 

そのような状況の中、赤崎教授は強い光源が期待できるという「窒化ガリウム(ガリウムナイトライド)」なる物質の結晶作りを追及し続け、遂には天野教授と共同で高品質の青色発光ダイオードの開発に成功。1993年には、当時、徳島県の日亜化学工業に勤めていた中村教授が、世界に先駆けて実用レベルの高輝度青色発光ダイオードの製造方法を開発し、量産化の道を開いた。

この青色発光ダイオードの開発をきっかけに、あらゆる色を表現することができるようになったLED(発光ダイオード)技術は全世界で爆発的に普及し、家庭の照明のみならず、街中の電子掲示板や信号機、自動車のブレーキランプ、携帯電話・テレビ・パソコン等のバックライト等々に利用され、現在の我々の生活にかかせないものとなった。

 

実際の開発時期から大分時間が経過してはいるが、今回のノーベル物理学賞受賞は、そういった現代の省エネルギー社会への貢献が評価されたのだという。

 

発明対価を求める特許訴訟

一夜明けて日本中がノーベル賞受賞に湧いているが、一部メディアではこの喜ばしいニュースに併せる形で、「発明」とそれに伴う「対価」について警鐘を鳴らしている。

3名の教授のうち、現在は米カリフォルニア大学で発光ダイオードの研究を続けている中村教授は愛媛県で生まれ育ち、そのまま同じ四国徳島県の化学メーカーである日亜化学工業に就職。同社社員時代、当時の社長に直訴して青色LEDの開発を始めたそうだ。

そして、念願かなって1993年に量産化につながる製造方法を開発。1997年にはその製造技術が特許登録された。

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携帯電話のバックライト

 

結果的に、現在ではLEDデバイスの製造でトップシェアを誇る企業へと成長した日亜化学工業だが、その最大の功労者であるはずの中村氏は会社に冷遇されたという。特許技術は会社が独占し、それを開発した技術者である中村氏には”ボーナス”として幾ばくかの金額が払われたのみだったそうだ。

それを不満に思った同氏は1999年末に同社を退職し、よりよい研究環境を求めて渡米して現職についたわけだが、あろうことか、日亜化学工業は同氏を「自社技術の秘密漏えいの疑い」で訴えた。

これに怒った同氏は、「特許を受ける権利の原告への原始的帰属の確認、及びそれが認められない場合は譲渡の相当対価」を求めて、日本で同社を逆提訴した。
これが、「青色LED訴訟」「404特許訴訟(当該特許番号の末尾からこう呼ばれる)」等の名前で知られる、元サラリーマン技術者が当時の所属先企業を相手取って「発明対価」を求めた裁判である。

最終的には原告である中村教授の訴えの一部が認められ、日亜化学工業が同氏に対して8億4000万円を支払うことで和解したのだが、この裁判は、しばしば特許を含む知的財産全般の価値を軽んじることがある日本企業の在り方を問う、大きな一石を投じた。

 

特許権と特許法

特許法では、特許を受ける権利は発明者が有すると規定されている。

特許法第29条(特許の要件)
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

 

ただ、その発明が会社従業員の職務上のもの(職務発明)であり、契約や勤務規則に則って、会社側が発明をした従業員から特許権を譲り受ける場合、従業員は「相当の対価」受ける権利があると定めている。

特許法第35条(職務発明)3項
従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第34条の2第2項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。

 

しかし、「相当な対価」という表現が曖昧であり、会社側が「対価」として支払った報酬額に当該従業員が納得できなければ、「青色LED訴訟」のように、会社が従業員から訴えられるリスクを孕んでいる。

 

発明した本人に特許を受ける権利があるのはもっともではあるが、報酬の金額いかんで会社が訴えられるリスクがあってはバランスが悪い。

会社とて、従業員の発明に際して開発投資資金を捻出しているわけだし、その特許権を活かして製品化・サービス化を実現してマネタイズをするのも会社なのだ。

そして、こういった不明瞭な部分がしばしば権利問題の火種となっていたわけだ。

 

日経新聞等報道によれば、この問題をクリアにして、会社が合理的に特許権を利用できるよう、特許庁が「従業員に報酬を支払う新ルールを整備し、企業が発明者に報いることを条件」に、「企業の従業員が発明した特許」を「企業に帰属させる方向」で特許法を改正する検討に入ったという。

※なお、朝日新聞は「特許、無条件で会社のもの 社員の発明、”十分な報償金”の条件外す 政府方針固める」と報じているが、「無条件」という点で日経等他紙とは大きく異なっていて、一部からは「不十分な取材による誤報」と指摘されている。
10月8日現在、同紙は記事の訂正は行っていない。

参考:特許庁「産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会」

 

「対価」に関するルール策定が急務

しっかりとしたルールの基に「発明の対価」が支払われるのであれば、研究者・技術者も研究開発に対するモチベーションを維持できようし、会社側にとってもその発明の価値を明確に算定することができるし、その先のマネタイズまでの計算もたてやすかろう。

 

「青色LED訴訟」を起こした中村教授はノーベル賞受賞後の会見で、研究の原動力は「怒り」であったと語った。
そして、自身に続く日本の科学者・研究者・技術者に向けて、冗談めかしながらも「よりよい研究環境を求めて日本を出るべき」といった趣旨の示唆もしている。

 

日本がこれからも優秀な科学者・研究者・技術者を輩出し続け、世界の産業をリードしていくためには、会社と従業員双方が納得できる、「対価」に関するルール策定が急務だ。

 

参考記事:
契約書のポイント ~知的財産権の帰属~
建築と著作権法の関係
パロディと著作権法の法律問題
デザイン書体と著作権の法律問題
プログラム・リバースエンジニアリングの法律問題
特許権と実用新案権と意匠権~その1~
特許権と実用新案権と意匠権~その2~
ウェブサイトの権利関係 ~ウェブサイトは誰のもの? その1~
ウェブサイトの権利関係 ~ウェブサイトは誰のもの? その2~

 

本記事は、2014年10月09日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
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